トップバーテンダーが語る
「ネグローニ」 #09
BAR TRENCH
ロジェリオ 五十嵐 ヴァズ
BARが生活の一部にある人生は、より豊かなものになる
BAR TRENCHは、2010年に恵比寿の裏通りにひっそりとオープンしました。インディペンデントなわずか13席の小さな手作りのバーで、“BARが生活の一部にある人生は、より豊かなものになる”という信念で、日々営業しています。
スタイルは、正確であり、論理的、細部に注意を払う日本的なバーテンディングと、クリエイティブでパフォーマンスの要素をもつ西洋的バーテンディングのミックス。日本のバーでありながら、いわゆるオーセンティックなバーではなく、コスモポリタンなバーであると言えると思います。それゆえに、世界中からのお客様とローカルのお客様が混ざり合う場所となっています。
ドリンクはクオリティーにこだわりながらも、親しみやすい雰囲気で提供しています。また、音楽や芸術とお酒を結びつけ、お客様にお酒の歴史やその背景にあるストーリーを伝えています。お酒を文化として捉えていただきたい思いからです。
2016年から開催されている、The Asia’s 50 Best Bars(アジアズ・50ベスト・バーズ)では7年連続でランクインしています。The World’s 50 Best Bars(ワールズ・50ベスト・バーズ)においても、5年連続51-100位のリストに選出されました。
ぜひ、当店の雰囲気を肌で感じていただきたいです。
ツイストで広がるネグローニ
私がネグローニを作るとき、カンパリのビターさを活かすために、カンパリ 20ml・ベルモット 20ml・スピリッツ 30mlのように少し甘みを抑えています。
ネグローニ人気の理由は、まさにここにあるように思っていて、シンプルなレシピでありながら個性的な味わいが楽しめます。
ツイストを加えても成立しやすいカクテルであることもそうでしょう。
バーテンダーの間でもネグローニの認知度は非常に高いですから、今なお世界中で多くのアレンジレシピが生まれています。
ラム ネグローニ、ピスコ ネグローニ、メスカル ネグローニなど、ツイストされたネグローニが広まることで、本来のネグローニがさらに注目を浴び、多くの方に認知され楽しまれるようになってきていると思います。
日本では、グラスの中で完成するビルドスタイルが今までは一般的でしたが、今後はミキシンググラスでステアする手法が一般的となり、誰でも簡単に作れるカクテルという印象から、バーならではのエレガントな本格カクテルとして楽しまれるように変化していくのではないでしょうか。
シンガポールでのカクテル体験
ツイストされたネグローニと言えば、シンガポールの「ティップリング クラブ」で飲んだネグローニが忘れられないですね。
メニューに割と小さく記載されていたネグローニを何気なくオーダーしたのですが、提供されてみるとカットしたピンクグレープフルーツがグラスの上に乗った状態のネグローニ。ただ、よく見れば実は果肉の部分がカンパリのジュレになっていて食べながら飲むとフレーバーがさらに強くなり、とてもおいしかったです。なかなか面白い体験でした。
お酒好きにも有意義なネグローニ・ウィーク
参加するお店が、お酒を提供しながらドネーションもできるなんて、ネグローニ・ウィークは素晴らしい活動だと思います。私も今回参加できて光栄です。
ただ、お店だけではなくて、お客様側にとっても有意義な活動なのではないでしょうか。
自らがお酒を飲み楽しむことで誰かの役に立てるというのは、お酒が好きな方であれば、この上ない喜びを感じることができると思います。
カシャーサとココナッツで、自身のルーツを表現
ネグローニ・ウィークに、ぜひ味わっていただきたい私のオリジナルネグローニは「ガロータ・ネグローニ」です。
私のルーツであるブラジルの蒸留酒「カシャーサ」をジンの代わりに使用しています。
カンパリのもつテイストプロファイルのうち、スパイシーでシナモンのようなフレーバーと、樽で熟成したカシャーサのマリアージュを楽しんでいただきたいです。
熱帯のブラジルを表現するべく、よりトロピカルな味わいを出すために、ココナッツリキュールも加えています。
ココナッツアロマとスパイス、そしてわずかに感じる苦味が絶妙なバランスを構成しています。
カクテル名の「ガロータ」はポルトガル語で「女の子」を意味します。
ボサノヴァで「イパネマの娘」という有名な曲がありますが、その原題は「Garota de Ipanema」。この曲を思い描きながら、イパネマビーチにいる女の子が飲むような、甘さのあるトロピカルなカクテルの要素を、このネグローニに落とし込みました。
カシャーサを使ったのも、青臭い味わいと同時に、原料のサトウキビによる、ほのかに香るシナモンやアップルパイのような甘さが、ガロータのイメージとぴったりだったからです。
カンパリやネグローニが好きな方はもちろん、カシャーサのカクテルにあまり馴染みのない方にトライしていただけたら嬉しいです。
ロジェリオ 五十嵐 ヴァズの「発想の源」
新しいカクテルのレシピは、無意識のうちに頭に浮かぶことが多いですね。
気がついたらすごく良いカクテルを思いついていた、ということがあります。
インスピレーションは、いつ、どこからやってくるのかわかりません。
びとつあるとすれば、普段、バーとはあまり関係のないものに触れるようにしていることでしょうか。
例えば、音楽を聴くのが大好きだし、ファッションや映画、写真にもたくさん触れています。
あとは、テレビのニュースやお客様との会話など。
何気ない時間からヒントを得ているのだと思います。
カクテルの創作はインスピレーションだけが大切ではありません。
お客様においしいカクテルを提供するという大前提があって、その時、味わっていただきたいテイストや私自身が作りたいものを頭に描いて形にしていく、このプロセスを大事にしています。