トップバーテンダーが語る
「ネグローニ」 #07
BAR VACANZA
眞野 貴代
バーの街・三島
BAR VACANZAがある三島は、バー文化が盛んな街です。カクテルはもちろん、ブランデーやラムのバーがあったり、あとはシガーバーがあったりとか、気分に合わせてお店を使い分けたりできます。
オーセンティックなバーが多いですが、業界歴の長いバーテンダーが作るカクテルですので、どのお店も間違いがありません。クラシックカクテルに定評があるバーが多いかなという印象があります。
BAR VACANZAは、元々はワインバーで、ワインとお食事が楽しめるお店でした。
私は、学生時代にダイニングバーでアルバイトをしていたのがきっかけで、この業界に興味をもち、22歳の頃からバーテンダーを始めました。
東京で7年間バーテンダーとして働き、3年くらい前に三島に帰ってきたのですが、そのタイミングでワインに加えて、カクテルやウイスキーもご提供するお店になりました。お食事もお楽しみいただけます。
「VACANZA(ヴァカンツァ)」は、英語の「バカンス」と同じ意味合いのイタリア語です。
お店に強いコンセプトはないのですが、バカンスのようにゆったりと、どなたでも楽しんでいただけるようなカジュアルバーです。
海外の個性的なネグローニ
ネグローニは味の振れ幅が広いと思います。
和風な味にもできるし、イタリアンな感じにもできます。
その国、その店の個性を出しやすいと思います。
私が出場したカンパリカクテルコンペティションで印象に残っていることがあります。
ミラノでのアジア大会のお題が「ネグローニ・ファミリー・ツリー*」だったのですが、本当に国によってネグローニの形が様々で。
その国のカラーと言えば良いのでしょうか。例えば、パンダンがすごく香るネグローニが作られたりとか。
その味が口に合う審査員がいたから、その国で優勝したというのもあると思うんですよね。
私の鼻には少し香りがきつく感じましたが。
中国の方は瓢箪のようなものに材料を入れて作ったり、タイの方だったと思いますがアニスをすごく効かせたネグローニを作ったり。
優勝したのは韓国の方だったのですが、その方は韓国の代表的な漬物であるキムチを使うわけでもなく、どちらかというとイタリアンに寄せていましたね。
ラザニアを使ってみたり、バジルを散らしてみたり。これもまた個性的な解釈です。
ナショナリティというか、ネグローニは本当に個性がダイレクトに反映される飲み物なんだと実感しました。
*ネグローニから派生したカクテルを網羅した相関図のこと
広がるネグローニの定義
以前勤めていたお店で、「ネグローニ」というネーミングなのにカンパリが全く使用されていないカクテルがあったんですね。
それが良いか悪いかということではなくて、ネグローニが人気になっていくにつれて様々に解釈され、広義になってきていると感じます。
カンパリを使っていなかったとしても、お客様に「ネグローニはこんな飲み物です」「アレンジを楽しめるカクテルです」と、まずは知ってもらうことが大事だと思いますね。それが“ネグローニはおいしいカクテル”と認知されることに繋がっていくと思うので。
先程のカクテルコンペティションでの出来事もそうですが、私の知っている「ネグローニじゃないけどネグローニ」があるというのは、すごく面白いですね。
最近、ノンアルコールのジンなど世の中に出てきているじゃないですか。
例えば、もっとネグローニという「概念」を広げていく意味で、ローアルコールのネグローニがロングカクテルで出てきてもすごく面白いと思います。
関心を高めていく環境作りが重要
ネグローニ・ウィーク、とても素晴らしい活動ですよね。
でも、私たちには馴染みがありますが、一般の方にはまだまだ知られていないような気がします。
活動に参加するお店があっても、飲んでいただくお客様がいなければ成立しませんから。
まずはネグローニ自体の認知度を上げていくことが第一歩かなと思います。
それこそ、ネグローニ・ウィークではチャリティが行われるだけではなくて、いろんなお店が独自のアレンジを施したネグローニをどんどん打ち出していく新メニューの発信期間にするなどしていけば、もっと裾野が広がっていくのではないでしょうか。
そうすることでようやく、このイベントに対して前向きな方が増え、より参加していただける体制が整っていくと思います。
ゆっくり楽しむロックスタイルカクテル
ネグローニ・ウィークに楽しんでいただきたい、私がおすすめするネグローニは「プルーン ブールヴァルディエ」です。
プルーンを漬け込んだバーボンを使っています。プルーンは甘みもありしっかり酸味もあるので、そのもの自体がカンパリとすごく相性が良いんですよね。
甘みも酸味もしっかりあって、そこにカンパリの苦味が加わるようなイメージでお作りしています。
この苦味もすごく重要で。
バーテンダーを始めた頃に、苦味は“カクテルが立体的になる”重要な要素であると教わりました。
甘みと酸味で基本的なカクテルは作ることができますが、そこに苦味があることで、たちまち平面が立体になります。
加え過ぎてもいけませんが、カンパリを入れることで良い塩梅でカクテルが立ち上がります。
甘み、酸味、苦味があって少し重めなのですが意外と飲めてしまう、そんなカクテルですね。
食後に葉巻を吸いながら、ゆっくり過ごす時に飲んでもらいたいです。
水との相性も悪くないので、氷が溶けてきてもお楽しみいただけます。
眞野貴代の「発想の源」
スーパーで食材を見るときは凄く意識してます。
「この食材をカクテルに取り入れるなら・・・」とイメージしながら店内を巡ります。
どんな食材にも、必ず相性の良いお酒はあると思っていて。「ミョウガと合うお酒はラムじゃなくてジンだよな」とか。常日頃から考える癖をつけています。
結局、新しいカクテルを作ってもすぐに飽きてしまうんですよね。
だから新しいものを作りたくなって、アイデアを求めにスーパーに行く感じです。
同じバーテンダーの方から刺激をいただくこともありますね。
ある方がエスプレッソとフレッシュな大葉のノンアルコールカクテルを作っていたのを目にしたんですね。普通に考えると相容れない組み合わせじゃないですか。
でも自分で試してみたら、これが結構衝撃的でおいしかったんですよね。
コーヒーと大葉の風味とバランスが絶妙で。
結局はインプットが大切だと思うんです。誰かが作ったものを食べたり飲んだり、レシピを教えてもらったり。
自分では思いつかないような発想に触れることは、本当に勉強になります。