トップバーテンダーが語る
「ネグローニ」 #06

The Bar TopNote
野間 真吾

故郷・広島でのブレない店づくり

広島でオーセンティックなバーを3店舗ほどやっております。1号店は客船のようなアンティークなバー。2号店は古民家を改装し和と洋を融合させた雰囲気のバーです。それぞれのお店にコンセプトを掲げています。

ここ「The Bar TopNote Ⅲ(3号店)」はビジネス街に位置していまして、お客様は「オトナ」な方が多いです。
簡単にお店に入れないような入り口になっていたり、本棚が扉になっていて実はお部屋が隠れていたり。
そんなオトナなお客様がふらっと入ってみたくなる「大人の隠れ家」がこのお店のコンセプトです。
大人になってワクワクすることって案外少ないですよね。隠れ家で遊びながらお酒を楽しんでいただきたいという思いで、このお店は作りました。

私のお話を少ししますと、バーテンダーになったのは20歳くらいの頃です。
広島の老舗店に「ウスケボ」というバーがあるのですが、そちらで5年間ほど修行させていただきました。
その後、4〜5年間ほどホテルに勤めまして、29歳の時に独立しました。
1号店は今年で10年目になります。

コンセプトが様々なお店をやっていますが、芯はオーセンティック。
長く続けるには「やりすぎないこと」が大切だと思っています。
どのお店にお越しいただいても、本格的なバーの雰囲気をお感じいただけると思います。

お茶好きも高じてお茶のお店も運営しています。フレーバーティーをメインで取り扱っています。
幼少期から母親によく紅茶を飲ませてもらっていて。それから茶道を嗜んだり、紅茶の世界に触れたりしているうちに、お茶が大好きになりました。

今ではお茶を通じて得られた知識が、カクテル作りにも活かされていますね。

バーテンダーだからできること

ありがたいことに、地元・広島をサポートさせていただいており、過去には広島市の観光大使を拝命し4年ほど務めていました。現在は、広島県の観光プロモーションのお手伝いをしています。
私がこのお仕事をお受けした背景のひとつとして、バーテンダーという職業が本当に好きだという思いがありました。

世間的には、バーは「待ちの商売」、バーテンダーは「古くさい」と思われがちです。
そう思われるのは、とても悲しいことです。

だからこそ、誰かが動かなければこの状況は変わりません。
行政のお仕事、それも故郷をPRできるお仕事は、ある種の社会貢献であると思っています。
バーテンダーである私が、観光大使のお仕事を通じて発信をしていくことで、バーやバーテンダーのイメージがやがてクリーンになっていくと信じています。

文化を盛り上げるためには、表に出て情報発信する存在は不可欠です。

社会貢献で世の中を変える

先程も申し上げましたが、バーテンダーにネガティブな印象をもつ方は少なからずいると思います。
大都市圏はグローバル化していますので違うのかもしれませんが、ローカルではそういったイメージは拭い切れていません。

実際に聞いた話として、「バーで働くのって危ないんじゃないの」と口にされるアルバイトスタッフの親御さんがいらっしゃったり。
パンデミックが起こって、より悪い印象になっているかもしれません。

そんな中でのネグローニ・ウィークの役割は非常に重要だと思っています。
海外のバーは、このような社会貢献活動に積極的に関わっていますよね。
そういうことも1つの要因であると思うのですが、海外ではバーテンダーに限らずどんな職業にも偏見が少ないように思います。

バーテンダーの社会的地位を向上させる良いきっかけとなることを期待していますし、ネグローニ・ウィークのような活動を目にしたバーやバーテンダーが意識をして好循環を生み出していけば、お酒のイメージ、バーのイメージ、バーテンダーのイメージはどんどん変わっていくと思います。
こういう取り組みは本当に素晴らしいと思います。

コンセプトは「伯爵×伯爵」

今回ネグローニ・ウィークにちなんで、オリジナルのネグローニを考えてみました。
それが、この「ネグローニ デル コンテ」です。

まずカンパリにアールグレイを浸漬させています。
アールグレイはみなさんご存知だと思いますが、フレーバーティーの一種です。イギリスの元首相であるグレイ伯爵(「アール」は英語で「伯爵」の意)が愛したことから命名されました。

茶葉の細かい話をすると、イギリスの「インペリアル」というものを使用しています。カンパリはビターオレンジのリキュールなので柑橘との相性は良いと考え、ベルガモットの柑橘香が強めなタイプのものを選びました。
シングルエステートで、柔らかい新芽を手積みしたFOPというタイプですので、えぐみの元となるタンニンも少なくカンパリやベルガモットの風味を損ないません。
上品な香りだけを残すため、浸漬は1時間だけ。カンパリの柑橘感を引き立たせるために、広島県産のドライレモンピールとドライオレンジピールも一緒に漬け込んでいます。

インペリアルという茶葉を使用したアールグレイ、グラスもバカラのエンパイア、そしてネグローニ伯爵が名前の由来であるカクテル・ネグローニと、伯爵に伯爵を掛け合わせています。
ベルガモットも、実はイタリアで生まれたもの。ですので、ネーミングにも「デル コンテ」(イタリア語で「伯爵」の意)を使いました。
とにかく高貴に、伯爵が飲むカクテルをイメージしています。

カンパリのおいしさを引き出す「副材料」

「ネグローニ デル コンテ」は、こだわりの副材料を加えることで完成します。

まずはラプサンスーチョンのビターズ。1ダッシュ加えています。
中国紅茶で「紅茶の元祖」とも言われ、イギリスに一番最初に渡りアールグレイの原型になったとも言われているのがラプサンスーチョンです。
グレイ伯爵は紅茶好きで有名だったのですが、最初に飲んだのはアールグレイではなくて、松の葉で燻製のような香り付けをしたラプサンスーチョンだったと言われています。
スモーキーな龍眼香がする紅茶ですね。アイランズウイスキーを想像していただければ分かりやすいかもしれません。高貴な味わいに華を添えます。

洗双糖という粗製糖のシロップもこのカクテルには重要です。
種子島産の100%サトウキビ糖液で作ったものなのですが、紅茶とこのような純度の高い砂糖は非常に相性が良く、コクと照りと香りが蘇ります。
今回アールグレイを使用しているので、甘さを加えることで柑橘香と味わいの骨格がしっかり出てきます。

最後に、ベルガモットのフレーバーオイルです。
こちらを入れることで、カンパリのビター感と浸漬させたアールグレイの香りがより際立ちます。
すごく青くさい香りがするんですよ。柑橘類のピールのような。

アールグレイを浸漬させたカンパリの風味を最大化させるために、これらの材料は欠かせません。

ネグローニの可能性

最近面白いなと思った記事があります。
ニューヨーク、グリニッチビレッジにある、イタリアンレストラン「Dante」さんに関する記事です。

このカフェ・レストランは、ネグローニが誕生する前1915年に開店した老舗です。
かつては著名人が通った名店でした。その後、オーナーが数度変わるのですが、注目すべきは2015年にオーナーになったシドニー出身のご夫婦。
このお2人は、とてつもないカンパリ好きだそうです。

そんな彼らが立ち上げた“ネグローニ・セッションズ”という独自のハッピーアワーなのですが、優雅なアペリティーボを提供することで、ニューヨーカーの心を掴み、一大ムーブメントを作りました。
「ニューヨークでネグローニを飲むならこの店」と言われるほど、盛り上がっているそうです。

すごく素敵な取り組みですよね。
好きという気持ちと情熱をもって行動することで、ネグローニの代名詞になったのですから。
日本にはそういう場所が少ない気がしますので、見習うべきお店の在り方です。
とても勉強になりましたし、ネグローニの底知れぬ可能性を感じました

野間真吾の「発想の源」

ドライブが好きですね。考えごとをするときも、だいたい車の中かもしれません。新しいカクテルを考えるときもそうですね。

運転だけではなく、駐車して2時間くらい仕事したりとか。一番落ち着くので、私にとっては車内がパーソナルスペースなんですよね。もう自宅の部屋みたいなものです。

美術鑑賞も好きですね。そこからインスピレーションを得ることもあります。
美術品や調度品も大好きです。お店に置くものを探しに行って、実際に買い付けたりしています。
男性あるあるだと思うんですよね。プラモデルを作るのが好きだったりするじゃないですか。
その延長線を楽しんでいる感じです。

ORIGINAL NEGRONI RECIPE
Negroni del conte -
ネグローニ デル コンテ

~伯爵のネグローニ~

アールグレイ インフューズド カンパリ 40ml
ブルドック ジン 10ml
チンザノ スイートベルモット 10ml
自家製ラプサンスーチョンビターズ 1dash
自家製ベルガモットフレーバーオイル 4~6滴
自家製洗双糖シロップ 1tsp

Method:stir

SHINGO NOMA - 野間 真吾

広島県広島市生まれ。18歳よりホテルや飲食店などでの勤務を経て、2013年に独立。現在は「The Bar TopNote」を含めて、広島市内に3店舗のオーセンティックバーを構える他、2店舗の紅茶専門店を展開する。現場の特産品を使った商品開発や観光プロモーター、地元酒造のアンバサダーなどを務め、広島の魅力を発信し続ける郷土愛あふれるバーテンダー。
国内外問わずカクテルトーナメントでの受賞歴も多数、日本でもトップラクスの技術と知識を誇る。
2020年にはCT Spirits Japanカクテルチャレンジのカンパリ部門で優勝。

|The Bar TopNote Ⅲ|
住所/広島県広島市中区紙屋町1-4-3 2F
営業時間/18:00~翌2:00 日曜定休
URL/https://www.top-note.net/kamiya.html
問い合わせ/☏082-258-1277