トップバーテンダーが語る
「ネグローニ」 #04

Bar BenFiddich
鹿山 博康

きっかけは偶然

ベンフィディックの名前の由来は、スコットランドの第2母国語のゲール語で、「ベン」が山、「フィディック」が鹿を意味するところからきています。“バー鹿山”ということですね。
ですから、当店は私の世界観が詰まったバーです。

畑を所有していますので、自分で栽培したものをカクテルの素材にするというのが特徴のお店ですね。

この業界に入ったのは20歳の時なのですが、それまで希望していた進路は様々で。
すごく掘り下げると、高校3年生までずっと野球をやっていまして、その時の進路希望は自衛隊でした。
ただ、野球部を引退して自由を手にしたら、一気にはじけてしまって。
365日練習漬けで、ATMからお金を引き出す方法でさえ知らないくらいでしたから。

当時、同じ高校の1歳年上の女性と付き合っていたのですが、彼女は既に車の運転免許を持っていたんですね。
野球部を引退した夏休み、夜の首都高ドライブに連れてってもらった時に車窓から夜景を見て、「東京すげぇ」と思い、そこから東京へ行くことを模索し始めました。

同じようなタイミングで、ゴルフ場のレストランでウエイターのアルバイトを始めたんです。人生初のアルバイトでした。
そのアルバイト先の支配人と何気ない会話をしている時に「東京にホテリエの専門学校がある」ということを聞いて。
飲食業や接客業にも興味がありましたので、両親にお願いして専門学校に通うことになりました。

ホテルのレストランで働きながら学校に通う中で、20歳まではソムリエを目指していましたが、就職したホテルでたまたまバーに配属されました。それがバーテンダーになったきっかけですね。
本当に偶然です。

楽しみ方は無限

ベンフィディックには人気のカクテルがありまして、それが「ネグローニ ハイボール」です。ネグローニのソーダ割りですね。
日本人はハイボールが大好きですからね。

スタートは、爽やかで飲み口が軽い方が良いと思うんです。
酒精が柔らかいところから入る方が、日本の場合は受け入れられやすかったりします。
そこからその味に慣れていただいたら、少しずつ酒精を上げていってスタンダードなネグローニを味わっていただくのも良いですね。

ネグローニの特徴的な飲み方として印象に残っているのが、確かドバイで見かけたと思うのですが「ネグローニボール」です。
歌舞伎町などでテキーラハイボールが流行った時代もありましたが、そのネグローニ版ですね。

ネグローニが、スーパーボールみたいにコーティングされていて一口で食べるというものです。
一口で嗜むネグローニという感じで、紳士淑女たちが飲んでましたね。飲んでるというか食べている感じでしょうか。
すごく斬新でした。

ネグローニは楽しみ方が無限ですよね。
当店ではあまりコーヒーを扱っていないのですが、エスプレッソとネグローニの組み合わせはおいしいなと思いますし、新しい飲み方やスタイルが今後ますます生まれそうな気がします。

ジンで変わるネグローニの味わい

私がネグローニを作る時、ジンをどう合わせるかを意識しています。
ネグローニはカンパリとジンでバランスの軸を作り、それをベルモットで少し伸ばすようなイメージを持っています。

ジンも銘柄によって酒精が若干異なりますので、どのジンを選ぶかでネグローニのバランスが変わります。これによってカンパリの活き方も変わってきますので、お客様の気分や求める味わいによってコントロールしています。

ネグローニ・ウィークを広めていくために

ネグローニが大好きなので、もちろんネグローニ・ウィークのことは知っています。
私たちがネグローニをご提供することで得られたそのお金が、世の中の役に立つことに繋がるのであれば非常に光栄なことだと思います。

一定の期間だけではなくて、寄付がしやすかったり、参加してみたいと思うようなシステムがもっと整えば、永続的に実施してみても良いかもしれません。
あのオールドファッションドを抜いて、ネグローニが世界No.1カクテルになったということも良いニュースだと思います。
この機会を通じて、お店にもお客様にもネグローニ・ウィークの輪が広まっていけば良いですね。

色彩豊かなネグローニ

このネグローニ・ウィークを盛り上げるべく、私が作ったオリジナルネグローニは「Crystal Negroni」です。
見た目でも楽しいネグローニというものを意識しまして、3層の色彩を作りました。

最下層がカンパリのシロップになっていて、上層がカンパリを蒸留したものになっています。
はじめは別々の味わいで飲んでいただけて、飲み進めていくうちにだんだん液体が混ざって見た目や味わいのマーブル感をお楽しみいただけます。
時間が経ってもおいしいネグローニですので、ゆっくり味わっていただきたいですね。

ネグローニってこんなにも幅があるんだ、可能性があるんだということも表現したくて作ったのですが、軸はあくまでもネグローニ。
装いが変わっても、本格的な味わいです。

ネグローニにも、いろいろな形があっても良いと思います。
炒飯だって、いろいろな味や見た目のものがありますが炒飯は炒飯。

ネグローニは好きなスタイルで楽しみたいですね。

鹿山博康の「発想の源」

先程もお話ししましたが、畑を所有していますので、新しいカクテルのレシピが思い浮かぶタイミングは決まって畑にいる時ですね。

畑仕事ってコツコツした作業が多いんですよ。そういった地道な作業しているとイメージが膨らむんです。
こういう素材を使うのも面白いかもしれないな、とか。

私のオリジナルネグローニですが、3層のグラデーションになっているじゃないですか。
一見都会的なのですが、畑の四季をイメージしているんです。
夏は緑がたくさんで、秋は草葉が色付き、冬から春に切り替わる頃にはまた新しい彩りが生まれる。
畑の中にも様々な色彩のグラデーションがあります。
ですので、カクテルにもこんな色彩があったらいいなと思って、それを形にしてみました。

東京やお店にいる時間は、インスピレーションを得ようとする頭にならないんです。
ゆっくり考える時は、ほとんど畑にいるかもしれないですね。

ORIGINAL NEGRONI RECIPE
Crystal Negroni -
クリスタル ネグローニ


ジン 30ml
カンパリ蒸留スピリッツ 10ml
カンパリミルクウォッシュ 45ml
(ミルク、カンパリ、ライム、パイナップル)
カンパリシロップ 1tsp
ミントウォーター 10ml

HIROYASU KAYAMA - 鹿山 博康

1983年生まれ。専門学校を卒業後、都内のホテルに就職。バーに配属されたことをきっかけにバーテンダーとしての腕を磨く。ホテルを退職後、西麻布のバー「Amber」の店長を務めながら、地元・埼玉に自分の畑を持ち、カクテルに使うハーブなどの栽培をはじめる。その後独立し「Bar BenFiddich(バー ベンフィディック)」を開店。わずか半年で海外メディアから取材を受けたり世界的に有名な料理人が訪れたりと、その名を世界へ轟かせる。国内外のカクテルイベントでもゲストバーテンダーとして活躍、現在は日本バーテンダー協会東京都支部広報部長も務める。

|Bar BenFiddich|
住所/東京都新宿区西新宿1-13-7 大和家ビル 9F
営業時間/18:00~翌1:00 日・祝休
URL/https://www.facebook.com/BarBenfiddich
問い合わせ/☏03-6258-0309