トップバーテンダーが語る
「ネグローニ」 #08
Jeremiah
山本 圭介
ミクソロジーの父へのオマージュ
Jeremiahは、世界最古のカクテルブックを発行した人物であり“ミクソロジーの父”とも呼ばれるジェリー・トーマスが当時運営していたバーと、そのカクテルレシピからインスパイアされてできたお店です。
私が最初に作ったお店が「Newjack(横浜)」というフレアバーもジェリー・トーマスに影響を受けています。
元々フレアバーテンダーとして活動していたのですが、Newjackは、映画「カクテル」でトム・クルーズがフレアバーテンダー役を演じていたことから着想を得ていて、それを現代の新しいスタイルに置き換えるというコンセプトをもったフレアバーテンディングとミクソロジーのお店です。
ジェリー・トーマスが生み出したブルー・ブレイザーというカクテルがありますが、メイキングの工程がフレアバーテンディングの原型になったと言われています。
彼はミクソロジーの元祖であって、フレアバーテンディングの元祖でもあります。
そんなトーマスのお店の雰囲気を感じてもらいたいと思いスタートさせたのが、このJeremiahです。
味の多様性が飲みやすさを生む
ネグローニはメジャーなカクテルですよね。
それこそ、ワールド・ベスト・セリングなどで必ずオールドファッションドとTOPを争ったり。
日本人は固定観念が結構強い人種だと思いますので新しいものにトライしないという方が多い中で、ネグローニは受け入れられやすいカクテルだと感じます。
カクテルを知っていくと、最後に行き着くのがクラシックなネグローニだったりするお客様が多いですね。
ビターでスイートなカンパリの強いベースがあることでバランス良い味わいになるネグローニは、日本人にすごく合うカクテルですね。
カンパリって、それ自体にたくさんのカクテル要素が詰まっているじゃないですか。苦味だったり、オレンジのシトラス感だったり、それに甘みもあります。
私がカンパリを使う時は、これらの構成要素を足し引きすることでカクテルがおいしく仕上がるのでやりやすいですね。
フルーティーな味をお求めだったらシトラスに振ったり、甘めな気分ならスイートに寄せたり。
味わいを引き立たせるために、苦味を足したりもできます。
カンパリが完成されたリキュールであるからこそ、どんなアレンジでも成立しますし、様々な方の口にも合うのだと思います。
バー文化発展のきっかけに
以前、熊本での震災の時に復興のためにドネーションしたことがあります。
このような取り組みはバーラバーにはもちろんですし、普段バーに行かない方へもバーやバーテンダー、それにカクテルをプロモーションできる好機だと思うんです。
ネグローニ・ウィークでは、世界で最も流行っているネグローニというカクテルを参加店舗が全面に出してプロモーションしながらドネーションもできるというすごくクールな企画だなと思いました。
バーにとっても良いですし、日本のバー文化がさらに発展するきっかけにもなると思いますので素晴らしいです。
トーマスの和風カクテルを再定義
ネグローニ・ウィークを盛り上げるために、私が作ったオリジナルネグローニは「Catana Negroni(カタナ ネグローニ)」です。
ジェリー・トーマスが活躍していたのは、日本の遣米使節団が初めてニューヨークに行ったという時代でした。
その頃アメリカでは日本語辞書のようなものが出回っていたそうで、その切り抜きの一部を見たことがあります。
その中の1つに、「刀」が「Catana(キャタナ)」と表記されているのを見つけました。当時のアメリカ人が、誰かに聞いた発音をそのままスペリングしたのでしょう。
そこにインスパイアされて、「C」が始まりのCatana Negroniができました。
和素材としてベースに芋焼酎を使用し、羊羹を漬け込んでいるのですが、そこにさらに私なりの解釈を加えています。
ジェリー・トーマスのカクテルレシピにあったジャパニーズカクテルが、そんなに日本っぽい味がしなかったんです。
味わい的に中国っぽい要素が入っている感じがしたので、彼が想像で作ったのでしょう。
ですので、彼がイメージしたであろうカクテルに少し日本っぽさを加えるためにトンカビーンズをインフューズしました。
クマリンによるバニラ香がほんのりします。
あんこが入って少し甘く感じる部分を、異なるアクセントとしてのトンカビーンズで調和しています。
チョコレートの羊羹を添えていまして、刀型の楊枝で切ってお召し上がりいただきます。
食前でも食後でもお楽しみいただけるカクテルです。
十人十色のカクテル
海外にゲストバーテンディングで行くことが多いのですが、必ずネグローニのツイストをもっていくんですよ。
日本のイングリーディエンツや、私が今回作ったネグローニのようにちょっとしたフードペアリングを入れてあげると、海外の方にすごく喜ばれるんです。
和素材として、ほうじ茶を混ぜたりゴボウのような根菜を加えてもおいしく仕上がりますね。
海外の方はネグローニのツイストを飲み慣れているので、すごく興味をもってくれます。
さらに日本の文化も楽しんでもらえるので、鉄板ですね、ネグローニは。
十人十色で作れるカクテルだと思いますし、かといって味ブレも少ないので、本当に重宝しています。
山本圭介の「発想の源」
カクテルのことは四六時中考えていますね。お店をやっていますから。
ですので、発想の起点はやっぱり「お店」でしょうか。お店のコンセプトによってカクテルを考えるのが好きですね。
Catana Negroniがそうであるように、当店はジェリー・トーマスのオマージュですので、その要素をベースにジャパニーズエッセンスを取り入れてクリエーションしています。
京都の「BEE’S KNEES」だったら、禁酒法時代のカクテルに、京都のお茶を付け足したり。
Newjackだったら、カクテルに馴染みの薄いお客様がいらっしゃるお店ですので、ネグローニをどうアレンジしたら飲んでいただきやすいかを考え、ココア味の麦芽飲料でウォッシュしたものをご提供したりしています。非常に飲みやすいですよ。
同じものをレストランで食べるのと、街場で食べるのでは味の感じ方が変わると思うんです。
それは味覚だけが、味の印象を決めないからです。
お店に来ていただいたら、カクテルの味はもちろんですが、コンセプトも含めて全て感じていただきたいというのが私の信条です。
ですのでクリエイションする時は、コンセプトファーストで考えることが多いですね。