トップバーテンダーが語る
「ネグローニ」 #10

カンパリ ブランドアンバサダー
小川 尚人

バーテンダーのフィロソフィが詰まったカクテル・ネグローニ

2022年、ワールド・ベスト・セリング クラシックカクテルで、「ネグローニ」が初の世界No.1*カクテルに選ばれました。最近ではバーに行くと、性別に関係なくネグローニをお楽しみいただいているお客様をよく見かけますので、人気になってきたことを肌で感じています。
ネグローニが注目を集めるカクテルになっている理由として、私が思うのは、ネグローニはさまざまなアレンジが可能で、レシピや混ぜ方などにバーテンダーのフィロソフィがしっかり反映されるカクテルであることです。

ある外国のお客様から「日本のバーでどんなカクテルを飲んだら、その店の特徴が分かるかな」と聞かれたことがあります。私が「ジントニックやハイボールでしょうか」とお答えしたところ、「海外では“ネグローニを飲んでその店の味を確かめる”というのが主流になってきてるよ」と話してくださいました。
そのバーやバーテンダーの特徴が出やすいカクテル、つまり「バーに行ったら、まずはネグローニ」という新しい常識が世界的に根付き始めているのかもしれません。
これから、日本でもますます浸透していくカクテルなのではないでしょうか。

*出典:DRINKS INTERNATIONAL The World's Best Selling Classic Cocktails 2022(世界のバーでの人気カクテルランキング第1位)

世界で感じたネグローニの高い汎用性

私は、2018年にカンパリ カクテルコンペティションで日本チャンピオンとなり、ミラノでの世界大会に出場しました。ネグローニが誕生してから100周年を迎えようとしていたこの年、大会ではオリジナルのネグローニを作る出場者が多かったのですが、例えばお茶と組み合わせてみたり、イチゴを使ったり、ハーブやスパイスを加えたりするシーンを見て、どんな食材とも相性が良いことを実感しました。

その中で優勝者のカクテルは、とてもフルーティで本来のネグローニよりもアルコール度数をやや抑え、飲みやすさにこだわって作られていました。日本にはアルコール度数の強いお酒が受け入れられにくい風潮があると個人的には感じているのですが、アルコール度数を変えてみたり、風味を変えてみたりしても、おいしく仕上がるネグローニは、日本でも受け入れられやすいカクテルだと思います。
汎用性に富んだカクテルであるからこそ、世界のバーシーンでブームとなり、今日に繋がっているのではないでしょうか。

ネグローニ熱が高まる中、迎えるネグローニ・ウィーク

ネグローニというカクテルが広まる一方で、「ネグローニ・ウィーク」については、海外でこそ“カンパリが取り組むチャリティ活動”として認知されていますが、残念ながら日本での普及はまだまだと言えます。

一般の皆様は、私たちバーテンダーに「夜の仕事」や「水商売」というイメージをお持ちかもしれませんが、このようなチャリティ活動を通じて、ネガティブに思われがちなバーテンダーの地位が向上すると思いますし、素晴らしいイベントであると感じています。
実際、私が過去にネグローニ・ウィークに参加させていただいた際、チャリティ活動終了後に寄付先の団体様から御礼のお手紙をいただいたことがありました。お手紙に綴られた感謝の言葉を拝見して、私が作った一杯が社会貢献に繋がったと思うと、バーテンダーという仕事により誇りを感じましたし、本当に活動してよかったという満足感がありました。
お酒を通して、豊かな社会の構築に寄与するこの活動がもっと注目されて欲しいですね。

イタリアを感じる、風味豊かなネグローニ

そんなネグローニ・ウィークに楽しんでいただきたい、私のオリジナルネグローニは「ネグローニ・エスプレッソ」です。
カンパリとジン、ベルモットのバランスを大切にしているのですが、味わいに奥行きを生み出すために、カンパリにコーヒー豆を漬けています。コーヒー豆を漬けることによって、カンパリとコーヒー双方の苦味が多重に合わさり、カクテルに厚みが出ます。ミラノに行くと、カンパリをコーヒーで割る場面を見かけることがありますが、味わいとしてもすごくマッチします。

そこに、「アマレナチェリー」というイタリアのブラックチェリーのシロップ漬けを加えています。これにより甘味の骨格が形成されます。ネグローニはフィレンツェ発祥のカクテルですので、イタリアらしい豊かな風味を感じていただきたいと思い作りました。

このカクテルは、食前と食後に飲んでいただきたいですね。苦味を感じていただくことで、食前においては胃の運動を活発化させるという面で適していますし、食後においてはコーヒーを飲むのと同じで、消化を促し、胃の負担を軽減します。
フードペアリングとしては、サンドイッチや生ハム、ソーセージなど脂身や塩気があるものがおすすめです。

カンパリを使った唯一無二の味わい

ネグローニに、カンパリは欠かせません。カンパリを抜いてしまうと全くの別物になってしまいます。昨今ハーブ系のリキュールで代用したネグローニも見かけますが、やはりカンパリを使わないとネグローニの本来の味わいは生まれません。
ほろ苦くて、ハーブとシトラスの味わいがしっかり入った、この唯一無二のカクテル・ネグローニを、ぜひこの機会に飲んでいただきたいです。

アルコール度数が強そうと感じている方にも、飲みやすさをお感じいただけると思いますし、エントリー(入り口)として、カクテルを好きになるきっかけになって欲しいですね。

小川尚人の「発想の源」

大好きな「読書」から着想を得ることが多いです。例えば、ハードボイルド小説で主人公が飲むカクテルからインスピレーションを受けたり、ある歴史書に「ワインを水で割って飲む」という記述を見つければ、リキュールやワインを水で割ってみて、その味わいを参考にしてみたりしています。
コンビニやスーパーにもよく行きます。コンビニにはさまざまなメーカーの飲料がありますので味を分析したり、スーパーでは珍しい食材を探したりして小一時間くらいウロウロしています。
世界各国を旅行するようなテレビ番組も好きですね。各国の料理を見て味を想像したりしています。

「ネグローニ・エスプレッソ」でアマレナチェリーを使ったのも、某飲料メーカーの製品を飲んだことがきっかけです。特徴的なチェリーの味わいが、ネグローニとマッチするだろうと思い試行錯誤した結果、アマレナチェリーに辿り着きました。

ORIGINAL NEGRONI RECIPE
NEGRONI ESPRESSO -
ネグローニ・エスプレッソ


Espresso infused Campari 20ml
Cinzano Rosso 20ml
Bulldog Gin 20ml
Amarena Cherry Syrup 15ml

Garnish:Amarena Cherry

NAOTO OGAWA - 小川 尚人
CT Spirits Japan 株式会社

神戸生まれ。神戸の老舗バーで長年修行し、現在カンパリグループにてカンパリブランドアンバサダーを務める。国内を始め、海外の有名店にて数々のゲストバーテンダーを行っている。カンパリカクテルコンペティション2018日本チャンピオン。