トップバーテンダーが語る
「ネグローニ」 #02
BULGARI GINZA BAR
石岡 雅人
ショコラティエからバーテンダーへ
当店では、中央通りを眼下に望みながら、お昼はランチ、夕方からはイタリアンスタイルの本格的なアペリティーボをお楽しみいただけます。アマーロやベルモットをはじめ、イタリアンスピリッツとリキュールを数多く取り揃えておりまして、イタリアンクラシックカクテルを現代風にアレンジしたカクテルをご提供しております。
私がバーテンダーになってから、今年で7年になります。前職ではパティシエとショコラティエをやっておりました。
ブルガリにも、元々はショコラティエとして入社いたしました。
前職の頃から、バーやカクテルに興味があって、様々なバーに足を運んでいたのですが、当時の人事担当者に「興味があるなら、バーテンダーをやってみないか」と言われ、3ヶ月だけバーテンダーとして働きました。
一度お菓子のことを忘れて、カクテルに関する書籍を読みあさったり、こっそりカクテルコンペティションにエントリーしたり。四六時中、カクテル作りに没頭しました。
そうしているうちに、カクテルの面白さや奥深さに惹かれ、自ら志願してバーテンダーになりました。
アレンジと原点回帰の反復
ネグローニは、アメリカーノをツイストしてできたカクテルですよね。
ツイストから生まれたという背景をもっていますから、自分の好きなお酒や様々な地域の食材などで、さらにツイストするという楽しさがあると思います。
ウォッカならネグロスキー、ウイスキーならブールバルディエ、テキーラならロシータ。
焼酎で作ってもおいしいですよね。世界中どこへ行っても、オリジナルのネグローニのスタイルを作ることができます。
でもときどき、オーソドックスなネグローニが飲みたくなって、また原点に立ち返る。
その繰り返しがあるからこそ、ネグローニは世界No1カクテルになったのではないでしょうか。
日本にはおいしいクラフトスピリッツやワインがたくさんあります。
それぞれのバーテンダーが、それぞれのロケーションで、それぞれのネグローニを作ることができて、飲み手もそれぞれのオリジナルネグローニを楽しむことができます。
これこそネグローニの醍醐味だと思います。
そんなスタイルを楽しんでいる人はかっこいいですよね。
今後ますます広がっていけばいいなと思います。
イタリア人に教わった意外な組み合わせ
以前一緒に働いていたイタリア人が教えてくれたネグローニの飲み方で、印象に残っていることがあります。
それは、ネグローニに少しだけビールを加えるというもの。
日本ですと、ビール入りのネグローニをオーダーできるバーはほとんどないと思うのですが、とてもおいしかったんです。
ネグローニというカクテルが生活に根付いているイタリアならではの発想だと思いました。
バーテンダーだからこそ積極的に
ネグローニ・ウィークのことは、私がバーテンダーになった頃から知っています。
海外では盛り上がっていますよね。日本からも参加できることを知らないバーテンダーの方も、まだまだいらっしゃるのではないでしょうか。
お酒を通じたチャリティで社会にコミットするという、とても素晴らしい取り組みだと思います。
バーとドネーションはなかなか結び付きにくいものだと思うのですが、だからこそバーテンダーがもっと積極的に参加するべきイベントだと思っています。
シンプルに、良いことなんですから。
ザ・ネグローニ
お店でご提供しているネグローニですが、カクテル名は「Il Negroni」と言います。「Il(イル)」というイタリア語は、「The」を意味していて、つまり“ザ・ネグローニ”ということになります。当時上司だったイタリア人のバーテンダーに、最初に教わったネグローニです。
彼は「Ricetta della Nonna(おばあちゃんのレシピ)だよ」と言っていましたが、定かではありません。
その言葉から、ネグローニがどれだけイタリア人の生活の一部になっているかを感じたんです。このカクテルにはイタリア人のカンパリに対する愛が詰まっています。
私はイタリア人にはなれませんが、イタリアンブランドで働くバーテンダーとして、このネグローニを大切に作っていきたいと思いました。
基本的なネグローニのレシピに、シチリア島のアマーロと、ピエモンテのバローロ キナートを加えています。全ての材料をプレミックスし、時間をかけて混ぜ合わせています。当店ではネグローニをご注文されるお客様が多いので、このネグローニの味をベースに、さまざまなカクテルに応用しています。ネグローニの持つ苦味や甘味を、アマーロやキナートで、より複雑に重ね、奥深い味わいに仕上げました。
重厚なカクテルですので、ディジェスティフとして、チョコレートと一緒にお楽しみいただきたいですね。
少し背伸びをして、食前でトライしていただくのも良いと思います。スプリッツにしてみたり、ソーダを入れても楽しんでいただけるのではないでしょうか。
石岡雅人の「発想の源」
最近は、なるべく体に負担がかからないようなレシピの開発であったり、自然素材に極力手を加えずナチュラルなままカクテルに活かすトライをしています。
自然が豊かな場所に身を置くと、アイデアが湧きやすいですね。
歴史や文化を勉強することにも力を入れています。
当店はイタリアンカクテルを提供していますが、カクテルの歴史だけではなくて、イタリアの人物の歴史であったり食文化やトレンドなどもインプットするようにしています。
合わせて、日本の様々なカルチャーにもたくさん触れて、日伊双方を結び付けられる要素があれば、うまく融合させてカクテルを作っています。
最近、門前仲町に引っ越したのですが、自然も歴史や文化も感じる街なのでカクテルのインスピレーションを得るのに本当にぴったりです。