次世代をつくるバーテンダーと
「ネグローニ」

木場 進哉 さん
夜香木

熊本を代表するバーへ

お店が「夜香木[やこうぼく]」と言いまして、東南アジアなどに自生している花の名前です。
夜にだけ花が咲き、ジャスミンやリンゴや蜂蜜みたいなすごい強い香りを放って虫たちを集めます。

そんな夜に花を咲かせて虫たちを集めるという特徴が、どこかバーと似ているなと思い、夜香木と名付けました。
店名が英語のバーが多いということもありますし、ここ熊本でしか飲めないカクテルを提供することをコンセプトにしていますので、日本語がいいなと。

だから他のお店にあるようなクラシックカクテルというよりも、夜香木でしか飲めない地元の素材を使ったシグネチャーカクテルを中心に提供しています。

高校を卒業して地元の酒屋でアルバイトをしていたのですが、そこでの出来事がバーテンダーになりたいと思ったきっかけで。
その酒屋がものすごい尖ってて。田舎の酒屋なのにビールとか普通の焼酎がなくて、店主さんが気に入ったものしか置いていない店でした。

その店主さんがお酒について本当にいろいろ教えてくださって、どんどんお酒に興味を持つようになりました。
自分が説明したお酒に魅力を感じて実際にお客様が購入してくださる、そういう接客にも楽しさを感じていたので、そんな話を店主さんにしていたらこう言われたんです。

酒屋だとお客様がいらっしゃって1本買っていただいたら、どれだけ早くても次にご来店いただくのは1週間後。
だけどバーテンダーなら、いろいろなお酒を使って、お客様の目の前で自分がつくったカクテルを飲んでもらえて、その場で意見も言ってもらえる。
お酒だけじゃなくて接客も好きなんだったら、バーテンダーの世界はすごい楽しいと思うよ。

バーテンダーになりたいと最終的に思わせてくれたのは、この言葉でしたね。

そこから、熊本市内のバーで働きはじめて、東京に移り、吉祥寺・丸の内のリゴレットでバーテンダーとして働きます。
リゴレットでは、仙台の立ち上げもやらせていただきました。

その後、父が亡くなったことを機に、再び熊本に。
母のことも気になりましたし、弟もまだ小さかったので。
アルバイトでバーテンダーをやっていました。

弟が高校を卒業したところで、もう一度しっかりバーテンダーをやりたいと思い、バー文化が盛んなシンガポールへ行くことになります。
シンガポールには5年ほどいたんですけど、日本のトップバーテンダーの方たち、現地で働く日本人バーテンダーや外国人バーテンダー、本当にたくさんの出会いがあって。
バーテンダーとしての自信がついたところで、2019年に帰国し、夜香木を立ち上げました。

今年、10年来掲げていた、自分が働くバーを「Asia’s 50 Best Bars」にランクインさせたいという目標を84位ではありましたが達成することができました。
来年以降、50位以内にランクインできるようにスタッフみんなで力を合わせていきたいと思っています。

サステナブルのかたち

バーって一般の方たちからしたら、やっぱり夜の世界のイメージが少なからずあると思います。
働いている僕たちはそういう感じは全くないんですけど。

そんな中で僕たちが、ネグローニ・ウィークのような活動に取り組むことによって、普段バーに行かない方たちが足を運んでくださるきっかけになればすごくいいなと思いますね。

今回僕がつくったオリジナルネグローニには、地元の福祉協議会の方たちがつくっているオレンジジュースを使っています。
最近はサステナブルがすごく謳われていて、食品ロスを減らすことばかりに注力しがちなんですけど、僕はカクテルに地元の食材を使ったりなど、そういうサステナブルを目指しています。
バーが起点となって、みんなが暮らしやすい街や社会づくりをしていきたいと思っていますので、ネグローニ・ウィークにはすごく共感する部分が多いです。

「ローアルコール」という新しい流れ

外国のカクテルって、日本ほど酒税が安くないので1杯3,000円くらいします。
金額的に外国では2杯くらい飲んで終わるお客様が多い印象です。

そんな背景もあってか海外で求められるカクテルって、アルコール度数がある程度ないと満足度も低いんですよね。
アルコール度数がしっかりあって、少し甘みがあって苦みがある外国人が好きなテイストのカクテルってすごく人気があります。
だから、ネグローニはシンガポールでもずっとつくり続けていたカクテルで。

でも、日本ではネグローニをオーダーされる方が少ないんです。
ネグローニをご存じでない方も多いのかもしれません。

いまの日本ではハイアルコールのカクテルがそんなに求められていなくて、ローアルコールだったり酒精の優しいカクテルが好まれるんですよね。

ネグローニも酒精を低めにしたものがどんどん出てくると、もっと日本で認知されると思いますし、本来の酒精の強いネグローニにもトライしてもらえると思います。

僕のオリジナルネグローニにも、一般的には40度のジンを使うところを、あえて熊本の25度の焼酎に置き換えています。
アルコールのボリュームを抑えてはいるのですが、米焼酎の力強さでネグローニのパンチを失わないようにしています。

焼酎で広がるネグローニの可能性

僕はそもそもネグローニが好きで、いろんなバーで飲むんですけど、香港でのことが印象的で。
今年のAsia’s 50 Best Barsで17位にランクインした、Mandarin Oriental Hotel Hong KongのThe AubreyというバーのDevenderというインド人バーテンダーがカクテルに焼酎を使うんです。
香港にある、日本がコンセプトのバーの、インド人って、いろいろややこしいんですが、彼がつくる焼酎を使ったネグローニがすごくおいしくて。

彼が使っていたのが鹿児島の「だいやめ」というライチっぽい香りのするフルーティーな芋焼酎で、そこにスイートベルモットとシェリー酒、アモンティリャードを合わせてネグローニを仕上げていました。
焼酎とベルモットだけだと重くなりすぎるためシェリー酒を加えてライトに仕上げている部分など教わる部分が多かったんですが、彼も40度じゃなくてあえて25度の焼酎でネグローニをつくっているという話を聞いて。

彼のネグローニはフルーティーさを残すために、その焼酎を使っていたので、アプローチは少し違うんですが、いま考えるとカクテルに対して近い考え方を持つバーテンダーだったのかもしれません。

クマモト ネグローニ

今回のオリジナルネグローニには、すべて熊本の素材を使っています。
どの素材も酒造メーカーさんや生産者さんのところへ足を運んで、お話を聞いた上で厳選しています。

1つめが「武者返し」という、25度の米焼酎です。
昔ながらの製法で1本1本丁寧に手作業でつくられている焼酎で、アルコール度数を下げてもカンパリと共存する力強い味わいがありネグローニらしさを保ってくれるベーススピリッツです。

2つめが「赤酒」です。
この赤酒も熊本でしかつくられてないお酒で。日本酒と同じ製造工程を踏みながら最後に木灰を加えてメイラード反応を起こすことによって、少し甘くて、みりんっぽいニュアンスに仕上がる珍しいお酒です。

熊本には、お正月に、赤酒に屠蘇酸というスパイスミックスを漬け込んだものをお屠蘇として飲む習慣があります。
ベルモットも赤ワインにハーブやスパイスを漬け込んだお酒なので、まさにこれこそジャパニーズベルモットだと思って。
ベルモットの替わりに使っています。

ただ、この2つだけでは、1杯飲むのには飲み疲れするなと感じて使ってみたのが、3つめの「天水福祉事業会ミックスオレンジ」です。
普段の営業でも使っているんですけど、カンパリとオレンジの酸味が相性抜群ですし、ネグローニ・ウィークのコンセプトともすごく合いますよね。
ミックスオレンジにクエン酸やリンゴ酸を加えて、ライムジュースと同じ酸度まで合わせたものを2.5mlだけ入れることによって、飲みやすいさっぱりとしたネグローニに仕上げました。

ガーニッシュのオランジェッタも熊本県内の方につくっていただいています。
チョコレートとオレンジをかじりながらネグローニを飲んでいただくという、若い方たちにも興味を持ってもらえるようなカクテルに仕上がったと思います。

熊本であることの強さ

僕たちの強みは、やはり熊本という地でお店をやれていることです。

いま熊本で手に入れられないハーブや野菜、フルーツはないと言われるほど、食材が何でも手に入ります。
あと、熊本のお水って全部地下水で。シャワーで出てくるお水がミネラルウォーターなわけです。
水がいいと農産物もおいしく育ちます。

海も山も川もあって、四季もしっかり感じられて、地域ごと季節ごとにさまざまな食材が穫れる。
こんなに恵まれている場所って、世界中探してもないんじゃないのかなって。

だから、熊本でしか飲むことができないカクテルを僕たちは提供できるわけです。
それをさらに僕たちが発信することで、熊本が、もっと言えば地元の酒造メーカーさん、農家さん、生産者さんが注目されると嬉しいですね。

熊本にずっといたなら、こんなに熊本の素晴らしさに気づけなかったと思うんです。
でも僕は外に出たおかげで再認識できたので、自信を持って他県や他国にない熊本の魅力を発信していきたいです。
広告塔と言うとおこがましいかもしれませんが。

僕たちが東京でお店をやっても、僕たちの魅力は半減すると思っています。
熊本でやっているからこそ、来ていただく価値のあるバーで居続けられるんじゃないかなと。

熊本人って、地元愛強い人が多いんですよ。
僕にそう思わせる根本には、熊本への深い愛情があるのかもしれません。

ORIGINAL NEGRONI RECIPE
Kumamoto Negroni | クマモト ネグローニ

カンパリ 30ml
武者返し 25度(米焼酎) 30ml
屠蘇酸 インフューズド 赤酒 10ml
ライム酸 オレンジ(天水福祉事業会ミックスオレンジ) 2.5ml

オレンジピール&オランジェッタ 1pcs

SHINYA KOBA | 木場 進哉

1985年生まれ、熊本県長洲町出身。高校卒業後に酒屋でアルバイトを始め、その後、熊本市内でバーテンダーとしてのキャリアをスタート。
22歳で上京し、「リゴレット」のバーに立つ。その後、29歳でシンガポールに渡り、スピークイージーの「CACHÉ」(現在は閉店)にて約5年間活躍。2019年に帰国し、2020年1月に熊本に「夜香木」をオープン。 築約150年の旅館を改装し、2Fには姉妹店の和食「瑠璃庵」がある。 夜香木は主に熊本の豊かな自然から生まれた素材を使用し、『ここでしか飲めないカクテルを』をコンセプトにカクテルを提供しています。

2021年 World Class Japan Bartender of the year に輝く。
2023年 夜香木がAsia’s 50 Best Bars 84位にランクイン。

|夜香木|
住所 熊本県熊本市中央区南坪井町5-21 1F
営業時間 18:00~翌0:30
URL https://www.instagram.com/bar_yakoboku_kumamoto/
問い合わせ ☏090-8408-5211