滅多にない貴重な経験をさせていただき本当にありがとうございました。ヘアメイクや衣装を含め、ここまで本格的な撮影は初めてだったため、なかなか自然な振る舞いをするというのが難しかったのですが、スタッフのみなさまが本当に良くしてくださり楽しい時間でした。

世の中に出ている映像のひとつひとつが、たくさんの人がこだわって緻密に作られていること、普段とは違う世界の奥深さを知りました。

予選はジャパン・ファイナル時のカクテルとさらに改善したプレゼンテーションを披露し通過でき、即興でのカクテルメイクと7分の英語プレゼンテーションが求められる次のラウンドでは、恥ずかしながら英語が苦手なこともあり、決勝に進むことができませんでした。

「カクテルコンペティションは英語の大会ではない」、「カクテルがおいしくてコンセプトが良ければ大丈夫」と思うバーテンダーさんも多いかと思いますが、あくまでもバーテンダーは接客業。お客さまを楽しませるには語学力も必要であることを改めて痛感しました。私の出場したアジア・ファイナルの優勝者は、どのバーテンダーよりも審査員の方々を楽しませていたように思います。

ジャパン・ファイナルでの優勝を知るお客さまからのご紹介の方も多く、お店の集客には明らかに変化がありました。

「眞野と言えばカンパリ」と認知している方も少なくはありません。これまで1〜2本を1年かけて空にしていたカンパリが、1ヶ月で1〜2本空くようになり、多くのお客さまがカンパリに興味を持つきっかけにもなれたのではないかと思います。

今回は技法を先に決めたあとにカクテルを考えるという新しいチャレンジをしたので、その技法に基づいてネグローニ・ファミリーツリーからベースカクテル、副材料の選定を行いました。スローイングをするメリットとしては、液体に空気を含ませることでまろやかな仕上がりになるという点がありますが、個人的に発泡する飲料を混ぜる場合にもスローイングを選択することがあります。また、トマトもスローイングすることで口当たりがふんわりするので、スパイスの風味を開かせる意味でもブラッディメアリーを作る際などにこの技法を使っています。今回はプロセッコを用いた「ネグローニズバリアート」をアレンジし、そこにスローイングに適したトマトを使用しました。アクセントにホワイトバルサミコで酸味の抜け感を、塩で味わいに厚みを持たせて、タイムで香りづけ。イタリアに馴染みのある素材を使った清涼感あるスープのような、ネグローニウィークが行われる残暑厳しい9月に飲んでいただきたきたいカクテルに仕上げました。

カンパリを使ったカクテルでは必ず、カンパリを主軸に置いた味わいの構成を考えます。例えば、通常のネグローニをアレンジする場合でも、カンパリと相性の良い素材をジンに漬け込んで香りづけする場合が多いです。

今回のトマト、ホワイトバルサミコ、タイムも同様、カンパリのビターオレンジやスパイスのフレーバーと相性の良いものを選び、カンパリのレッドカラーを綺麗に残せるようにしました。また、カンパリに馴染みのないお客さまが飲んでみたいと思えるような「飲みやすさ」も意識して、特別な素材ではなく手に入りやすい素材の組み合わせにしています。

ネグローニは3年連続で世界No.1カクテルになったにも関わらず、少なくとも私の周りのお客さまにはまだまだ飲んだことのない方が多いように感じます。その要因としては、高いアルコールを敬遠してしまったり、ビターさに苦手意識がある方がいらっしゃるからではないかと思います。ですが、バーテンダーのアレンジで、さまざまに形を変えるのがネグローニの魅力のひとつです。「ネグローニウィーク」をきっかけに、自分好みのネグローニをバーテンダーと一緒に探してみてはいかがでしょうか。バーテンダーも、お客さまのそんな「無茶ぶり」を楽しみながら、ネグローニを探求していったらいいのではと思います。